二人芝居「ハンナとハンナ」

マナカナ,文化・芸術

二人芝居「ハンナとハンナ」を観てきました。主演は、三倉茉奈さんと三倉佳奈さんです。コソボ難民問題を扱った重たい内容の作品です。コソボ人ハンナとイギリス人ハンナの関わりを、イギリス人ハンナの心の成長に合わせてお話が進んで行きます。

昨年、朗読劇(リーディング)のハンナとハンナを観に行って、衝撃を受けました。

とても良い演劇で、ぜひもう一度観てみたいと思っていたら、二人芝居になって帰ってきました。大阪公演2回、千秋楽を含む東京公演3回を観てきました。

大阪公演は、舞台上舞台と言う事で、かなり近くから観られました。ものすごい迫力でした。ただ、椅子がクッションなしの木製だったので、お尻が痛かったです。ホールはシアターBRAVA!でした。

東京公演は、小さめのホール(東京池袋、あうるすぽっと)でした。3公演とも3列目を確保できていたので、わりと近かったですが、舞台上舞台に比べると遠いです。舞台上舞台だと、ほぼ真っすぐな視線なのですが、通常の舞台なので、下から見上げる視線になります。私は、環境の違いに順応できなくて、東京の1公演目はちょっとつまらなく感じてしまいました。順応できた2公演目は、集中して楽しめました。千秋楽は文句無く楽しめました。

一緒に行った人(カオルさん、JINさん)のお話だと、リーディングの時と、二人芝居の時とでは、ほぼ同じ脚本の様です。

リーディングの時もある程度の動きはありました。ただ、台本を手に持っての動きだったので、制約があります。二人芝居では、その制約が無くなったので、全身を使って演じています。

下に書いてある通り、主要な登場人物は7人です。この人たち全員を、三倉茉奈さんと三倉佳奈さんで演じます。茉奈さんと佳奈さんは、ハンナを演じている時とは違う声の調子や動作で、他の登場人物を演じ分けていました。非常にわかりやすかったです。

リーディングでシンプルだった舞台は、二人芝居になってもシンプルでした。スケッチボードは、2面のスクリーンに、2つの箱は、3つのトランクに置き換わっていました。床は、美術・照明・映像制作のヤン・ベッカーさんが直々に着色したものだそうです。水色の楕円です。その楕円に合わせて、2面のスクリーンが配置されています。トランクも、ヤンさんが自分で選んだ物だそうです。

舞台がシンプルな分、情景を描くのに、観客の想像力が試されます。話の筋を追いながら、自分で場面を浮かべなければならないのです。

脚本自体も、余りに悲惨な内容は、その様な事があった事をほのめかすだけで、はっきりした言葉では伝えません。

イギリス人ハンナの心は、次の様に変化して行きます。

  1. コソボ難民の事を良く知らず、単純に迫害を続ける
  2. 迫害を続けるものの、心に引っ掛かりを感じる
  3. ブルに殺されかけたアルヴィンを助けたのをきっかけに、コソボ人ハンナに興味を持つ
  4. また、コソボ人ハンナの母フローラを見た事で(フローラは上品)、コソボ人に対するイメージを変える
  5. ブルに見えない所では、コソボ人ハンナと親しくする(毎週金曜日のお茶会)
  6. ブルの前では、自分の心とは裏腹に、コソボ人ハンナを迫害する
  7. ブルの前でも、コソボ人ハンナと親しくする
  8. ブルから暴行を受け、引きこもりになる
  9. ジョーがコソボに行く事をきっかけに、外に出る
  10. コソボ人ハンナと別れの挨拶をできないまま、どこかの暗い所に迷い込んでしまい、我慢を強いられる
  11. 突然開放された場所で、コソボ人ハンナと再会し、心の底から喜ぶ
  12. コソボ人ハンナが、コソボでセルビア人から受けた迫害の告白を聞き、胸を痛める
  13. コソボに滞在したいと願う
  14. コソボ人ハンナとお別れをする

大体、こんな感じでしょうか? イギリス人ハンナの心の動きを、三倉佳奈さんは、全身を使って表現していました。

コソボ人ハンナの心は、基本的に安定していて、三倉茉奈さんが穏やかに演じます。

今まで、三倉茉奈さん、三倉佳奈さんの芝居を観てきて、そして今回のハンナとハンナを観て考えた事があります。

三倉佳奈さんは、自分で役になりきって、 観客も自分の役の世界に引き込もうとするタイプです。三倉佳奈ワールドに着いてこないと、承知しないよと言う感じです。佳奈さんが、三倉佳奈ワールドに入っている時、役者スイッチが入っているように見えるのだと思います。

三倉茉奈さんは、三倉茉奈さん本人を役に投影して、自分の役を自分に引き込むタイプです。その役が、まるで茉奈さんそのものの様に思えます。観客を優しく包み込むような感じで演じます。

いかがでしょうか?

大阪公演、東京公演の、基本的な衣装は、次の写真です。

この衣装の上に、シーンに応じた上着を羽織ります。イギリス人ハンナ(三倉佳奈さん)は、スーパー「アルディーズ」の上着、コソボ人ハンナとの関わりが始まる時の"LOVE"と書かれた上着があります。コソボ人ハンナ(三倉茉奈さん)は、ねずみ色のカーディガンがあります。

三倉茉奈さん、三倉佳奈さんの演技も良かったですが、照明・音響のタイミングも抜群に良かったです(数回ミスがありましたけれど)。照明は、伏屋知加さん、音響オペレータは「まいくまこ」さんです。照明は、シーンに合わせてプリセットされた照明(5Dとか6Dとか)をタイミング切り替えていました。音響は、歌のシーン、シュプレヒコールのシーンでマイクを効果的に使います。タイミングはバッチリでした。

そんな事を感じながら観ていた、ハンナとハンナでした。

登場人物とあらすじを載せておきます。最初にブログを書いている時、あらすじが詳細になりすぎました(37段落)。簡略版に差し替えて掲載します。

【登場人物】

イギリス人ハンナ
Hannah 16歳(三倉佳奈)
ジョー
イギリスハンナの兄 、警察官22才。親コソボ難民派。
(名前不明)
イギリスハンナの祖母、最初引きこもり、後にコソボ難民を助けるボランティア。
ブル(ウシガエル)
イギリスハンナの彼→元彼、反コソボ難民派。ナショナルフロント。
コソボ人ハンナ(本名はジーバーヒーラ。ハンナはミドルネーム)
Hanna 16歳(三倉茉奈)。父は英語教師だった。
アルヴィン
コソボハンナの兄、サッカーが好き。
フローラ
コソボハンナの母。コソボでは小児科医。

【あらすじ】

コソボ難民のハンナが、イギリスのマーゲットにやってきます。やっと安定した生活が出来ると思ってやってきたのに、そこにあったのは差別と偏見。マーゲートで知りあったイギリス人ハンナからも冷たくあしらわれます。

イギリス人ハンナには、アパートに引きこもった祖母がいました。コソボ人ハンナの兄アルヴィンが、イギリス人ハンナの彼氏のブルに殺されかけます。アルヴィンの治療の為に、コソボ人ハンナと共にイギリス人ハンナのアパートに行きます。殴られた場所と近かったのと、ブルが怪我を負わせた事に責任を感じてです。そこにコソボ人ハンナの母フローラが、アルヴィンの治療のために連れられてきます。

その事をきっかけに、イギリス人ハンナ一家とコソボ人ハンナ一家の交流(お茶会など)が始まります。ハンナとハンナは、歌を通じて仲良くなります。ところが、二人が仲良くしている所を、反コソボ難民派のブルに見られ、イギリス人ハンナが迫害を受けるようになってしまいます。イギリス人ハンナは、引きこもるようになってしまいました。

それから4ヶ月が過ぎたある日、コソボ人ハンナ一家がコソボに帰る事になりました。コソボ人ハンナ一家はトラックに乗り、長い間揺られていました。迫害を受けていたイギリス人ハンナも、そのトラックの荷物室に居て、暗い中孤独に揺られていました(イギリス人ハンナは、自分がどこに居るかわかっていなかった)。

もう会えないと思っていたハンナとハンナが、車の着いた先、コソボで感動の再会をします。そこで、コソボ人ハンナの辛い過去が、イギリス人ハンナに告白されます。コソボに滞在を願うイギリス人ハンナでしたが、パスポートが無いために、マーゲートへ帰らなくてはなりません。二人は、別れを確認しあい、最後に歌を歌うのでした。

【ご本人のブログ】

Posted by お市のかた